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結婚式の日

 先月のことだ。

夜空のベールがなめらかにひろがる中、唐突に穴が開いたように、ぽっかりと月が浮かぶ土曜日。

肩ひもの壊れて背負えなくなったフィドル(ヴァイオリンのことだが、私たちの音楽界隈ではそう呼ぶ)のケースを携えて、久々に行きつけのパブに顔を出した。

 

集まった3,4人の20代と50代のオーナーと、セッション(即興の合奏)半分、エッチなお話しと大御所ミュージシャンの昔話、噂話を半分、お互いの近況報告を少々。

いつものように解散。このときとある笛吹きのbさんから、もしよければぼくの結婚式の演奏に参加しない?とラフに誘われた。

 

お誘いされたのはもちろん私だけではなくて、その場にいたほかのミュージシャンもいっしょだ。ただ、それぞれ都合があったりなんだりで、学生で実際に参加したのは私だけだったと思う。

 

 身内ではない方の結婚式に呼んでいただけるだけでも相当嬉しかったが、まして演奏ができるというのでその場ではい!よろしくお願いします!と即答してしまった。

bさんはいつもの朗らかな笑顔でまた詳細を連絡する、と伝え、一緒に来店した女性とともにパブを後にした。

仕草の丁寧な、笑顔の素敵な女性だと思った。

しあわせが二人の寄せ合う背中に滲み出ている気がして、こちらまでうきうきしてしまう。

 

 式は、鴨川沿いに教会、カフェ、パブを昼から夜にかけてはしごする形で、思っていたよりも非常にラフに行われた。

 

私たちがふだん扱っている、アイリッシュ音楽と呼ばれるアイルランドの伝承音楽がふんだんに取り入れられた式と宴。

斬新で気楽で、二人の人生のすばらしい非日常を祝う私たちの日常の一部というような、新郎新婦の人柄が忍ばれる一日だった。音楽まみれでほんとうに楽しかった。

 

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(教会で演奏前、リハーサル後。フィドルがこんなにたくさん。かわいい。)

 

  世代の異なるミュージシャン(とはいえもちろんメインの仕事は別にある方がほとんどだ)とたくさん交流ができたことも大きな収穫だった。

 

 

2次会と3次会の合間に1,2時間ほどあったので、一人で参加していた私は知人のsさんといっしょに鴨川をあるいて下ることにした。

 

フィドラーとして大先輩であるmさん、iさんともはじめてそこでゆっくりお話しした。

たしか、むかしの京大生が鴨川をイカダで下っていて迷惑だったので、鴨川に飛び石が配置されるようになったのではないか、という説があるらしい、というようなお話をしたと思う。笑。むかしの京大生、かわいいかよ。

 

一時間半ほど歩いてまだ宴会の開始には早かったので、とちゅうで路地に入りカフェに寄った。

 

カフェは和風の造りだった。HiFiカフェ(http://hifi-cafe.com/)という。

 

店名の書かれた至極 控えめな看板を左手にみて小さな門をくぐると、細長く石畳が続いたすこし先に改めて のれん が掛けてあり、そこで右を向くと襖の入り口が見つかるのだった。

 

なんだか隠れ家みたいでおもしろい。

 

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 (HiFiは「ハイファイ」と読む。コンパクトな店内にはたくさんのレコード、CDが並びレトロな雰囲気。おすすめはこちらのクリームソーダだそう。青色が爽やか。)

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ここではおじさま3人の専門的なお話にまったくついていけず、とにかくふんふん、と相槌を打ちながらアイスカフェオレをちゅーちゅー吸っていた。

 

カウンターに4人で並んで座ったのだが、最初は静かにみえた店長がお話しすると気さくな方だったので、すこしほっとする。

ほかにお客さんは2人ほどいて、カウンターの後ろの畳の間には各々の静寂が安堵したかのように足を伸ばしていた。

 

 

3次会はいつもよりも大規模なセッションといった感じで、酔っぱらって眠かったのであまり曲は弾けなかったが、最後の最後まで残って余韻を楽しんだ。

 

新郎新婦のお二人が、最後までありがとう、 とタクシーをひろってくださった。

つねに金欠の身としてありがたすぎた…

 

お二人が仲睦まじくお家に帰って行かれたあと、私の下宿はもう少し先なので、運転手の方と恋愛について軽く語りながら、結婚っていいなあとぼんやり考えた。

 

新しい彼氏がなかなかできないんですよーとネタとして言ったつもりが、運転手のおじさまが降り際にめちゃくちゃ熱心に励ましてくれたので、逆にちょっとつらかったり。笑。

 

iPhoneの電源を軽く押すと、AM1:30を少しまわったころ。

いつものセッション帰りと、帰宅の時間はそう変わらない。

 

この日も土曜日で、月光がぽっかりと穴をあけている以外、夜空のベールにはしわ一つなかった。