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夏の話 改札を通り過ぎ。

 『その日は、夏らしく晴れてくれて。

実家から2時間半の道のりもぜんぜん苦じゃなかった。

桜木町の文字がみえる瞬間がどんなに楽しみだったか、いまでも思い出すとつい口元がゆるんでしまう。』

 

 

部屋でひとり、じゅる、野菜ジュースをすすった。

続いて「さくさくめろんぱん」を口いっぱいに頬張りながら、こんな書き出しでいいだろうか、と前かがみになっていた身体を起こす。

口の端からパン屑がぽろぽろ落ちそうになって、あわてて無理やり押し込む。

サークルの同期にメロンパン好きがいるので影響されたのかもしれない。さいきん最寄りのフレスコで「さくさくめろんぱん」ばかり買っている。

 

 

思い出せばまだ1年経っていないことに驚いてしまう。

大学3年間でいちばん美しい思い出について書き留めておこうとしたはいいものの、

ただ「うつくしかった」というおおざっぱな印象が最初にきて、細かく思う出そうとすると記憶が断片的だ。

やっぱり美化され過ぎている証拠なのかもしれない。

 

 

『こちらの記事をすでに読んでいる方はお分かりかもしれないが、私は港町が相当に好きだ。山に囲まれた街とはまったく真逆の魅力がある。

 

yuriyuriyuriyuri88.hatenadiary.jp

 

横浜。

とくに桜木町駅には思い入れがあった。

はじめてひとりで歩いた、まったく見知らぬ街。

 

東京に出た回数のほうがずっと多くはあったが、いつもなにか親戚の用事やイベントに連れられていただけで、ひとりで歩かせてもらえた記憶がない。

横浜に来たときも実際ひとりじゃなくて、おおげさに従妹の兄が付き添いさせられたのだが、兄は私を自由にさせてくれた。

 

そこを今度こそひとりで来れているという嬉しさもあったし、なんといってもこれから会う人はまちがいなく、じぶんの人生20年間でいちばん大切だと思える男の子だった。

 

どうにか晴れてほしくて、1週間前くらいからドキドキして、毎晩寝る前に「8月〇日、晴れてください」とお祈りしてから寝ていた記憶が、あるような、ないような。笑。』

 

 

タイプしながら、また口がほころんでしまう。

YouTubeの再生リストをタップする。どこか懐かしいアコーステイックな音楽が唐突に流れだす。

Julie Fowlis (※)のホイッスル、やっぱわりと好きだな。

ステージでリコーダーのような小さい笛を吹く外国の女性を、しばし観察する。

そのまま適当に再生しながら、PCに戻り、書き進める。

 

『思い返すと、JRの車内はずいぶん殺風景だったと思う。

でもめったに電車に一人で乗らないので、暗い緑色の座席の一番奥にちょこんと座り、非常に満足な面持ちで窓の外のうつくしい青空ばかりながめていた。

 

次の停車駅は、桜木町桜木町ーー

たしかそんな感じのアナウンスだったような。空耳じゃないか、もういちど耳をそばだてて繰り返しを待ったけれど、よく聞こえなかった。

 

はあ。また駅間違えたらどうしよう。

 

1人で遠出の慣れない私が、駅を間違えたり、乗る電車を間違えたり、車内に忘れ物をしたりはまったく珍しいことじゃない。

彼のことをぼんやりと想う。

電車が大好きで、乗り換えにも詳しくて、私が駅であたふたしているとサッと手を引いてホームまで連れて行ってくれる彼。

あたふたし過ぎて切符を買えないまま一緒に改札まで行ってしまって、ごめん、切符まだ買えてなk、まで言ったところでさっきついでに買った、はい、と切符を渡してくれる彼。

 

はあ。脳内再生するたびに惚れ直してどうすんだばか、とじぶんのベタ惚れっぷりに呆れながら改札の手前まで行った。

降りた駅は間違っていなかった。二度目の桜木町だった。

 

 

彼にラインを送る。

ついたよ。

 

すぐに既読がついた。

どこいる?

 

トークを開かずに、改札で隔てられた向こう側に目を泳がせ、彼らしき人を柱の横に見つけた。

 

通知が来た。

南改札のとこで待ってる。

 

トークを開いて既読をつけて、りょうかいと送信。

 

ほんとうは、もう見つけているし、このまま改札を出て駆けよればいいのだけれど…

 

そんなかわいいこと、できないなあと心の中で呟く。

改札を出ようとする足が止まる。彼らしき人が顔を上げてこちらをきょろきょろしているので、気づかれないように下を向いて携帯をいじる通行人のふりをする。

 

恥ずかしいのだ。こうして会うだけでも。

 

あと数十歩歩いたところに好きなひとがいる、ということが非日常だから、緊張や焦りや不安が期待や嬉しさといつも同じくらいある。

たぶんそれがバレバレなのだろう。なかなか会えない不安ゆえに、会えた時に私がついとりがちな微妙な距離に、彼はよく戸惑っているようにみえた。

 

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結局改札を下を向いたまま急ぎ足で通り過ぎ(彼らしき人の前もそのまま駆け足で通り過ぎ)、私はひとりで下を向いたまま南口をでて日の光を浴びてしまったのだった。

 

だって恥ずかしかったのだ。かわいらしい子がするならいいものの、わたしがやっても。

 

日差しの強さにつられて顔を上げると、ザ・横浜な景色が広がっていた。』

 

 

 

 携帯の電源を推して通知を確認する。

メール3件、ツイッター1件、メルカリ1件、ライン10件…

適当に開いて全部確認する。

 

彼の連絡先はいま手元にない。

というかこないだなくした。

 

ポケモンGOというゲームアプリが配信されてまだ数日しか経たないのに、暇なときや気分転換したいときに開くのがもうクセになっている。

 

6畳一間の狭い部屋に、一定の時間をおいて無制限にコイキングが 湧きつづける。

あ、また湧いた。モンスターボールを放る。の繰り返し。

 

今朝はカメールが出てきた(捕まえられなかったけど)から期待してたけど、もう現れてはくれないかぁ。あきらめて再びキーボードに戻る。

 

タイミング、があるのだ。すべてに。

 

~連載します~

 書くのがしんどいので、つづきはまた明日。笑

 

※ジュリー・フォーウィルズ。

海外のアコースティック系のバンドで笛とボーカルをつとめる。

聴いていた音源がこちら。https://youtu.be/u-ofqNfH9No

ちなみにこの人は歌も素敵だ。https://youtu.be/u-ofqNfH9No 

 (携帯だとうまく再生されない場合があります)