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青春感ある。

~読み切りにするつもりが、また連載。~

 

 

 

・・・

 

 

 透明な緑色が幾重にも重なり、風に身を委ねている。

虹彩の筋肉を収縮させ、ぼやけた映像の輪郭をだんだんはっきりさせると、青紫色の宵のそらを遠く飛行する影が見える。

クスの葉がこすれる、微かな音。

同時に、ちゅんちゅん、と早朝らしい濁った重音。

 

朝の5:00を少し過ぎたころだった。

私たちは、京大の時計塔前の広場ど真ん中、シンボルマークのクスノキの下でだらしなく横たわっている。

 

今日は日曜日だ。校内には正門の脇の小さな窓口以外、警備のおじさんも見当たらない。

 

隣で寝っ転がらずに座ったまま俯いて目を閉じているのは、昨晩知り合った京大生である。

元気になれる曲流していいですか。陽気なカントリー調の曲リストが再生される。

ちょっと見ていいですか、と断って彼のiPhoneを操作する。

見覚えのあるプレイヤーやバンドもあったが、まったく知らないのもたくさんあった。

どんどん上にスクロールさせていくと、英語の並ぶ中カタカナで、曲数が飛びぬけて多い項目が見つかった。

 

わぁ、CDたくさん持ってるんですね。私ハンバートハンバート(※)めちゃ好きです。

そうなんですか。ぼくもめっちゃ好きです。でも、一時期嫌いになって、再生リストから曲消してました。

ええー、なんでですか。

なんか、あざとい感じがして。歌詞とか、良すぎてあざとい、みたいな。

ああ~。なんかわかる気もする。

 

二人とも寝ぼけているので会話も適当になる。

この曲流していいですか。いいですよ。

静かな校内で男女の素朴な歌声が小さく流れ出す。

 

クスノキの下にはもうひとりいる。こちらはなんだかんだでちょくちょく一緒に行動している京大の院生である。この場所に来てソッコウ堂々と木の下に寝っ転がり、いまも目を閉じて腕を枕に静かにしている。

 

なんだか変な組み合わせ。

 

そもそもこんな予定じゃなかったし、知人のライブに行ったのが昨日の午後7時だから、かれこれ10時間以上外出している。頭がおかしい。

学部生さんの方はそもそもライブの出演者だし、そもそも昨日が初対面だし、この状況自体もいろいろとおかしい。

 

まぁ、面白いからいいか。

もう一度世界の輪郭をぼやかして、腕をおでこのでっぱりに乗せ、強く透き通ってきた朝日から顔を守る。

クスの葉が揺れているのを空気の機微に感じる。

 

 

・・・

 

 

ほんとうは、30分前に着いているはずだったんだけど。

 

フェイスブックでお誘いがあったのを思い出して、今さらだけど、と思いながらバスの中で参加する、のボタンをタップする。

 

土曜日は気が抜けるのか、毎週必ず昼寝をする習慣がついてしまっていた。

この日は特に寝すぎてしまって、タイミング悪いなーなんて自分に悪態をつきながら重い腰をあげて急ぎ身支度をする。

 

外に出ると、京都の世間はすっかり「宵山(よいやま)」一色だった。

バスの乗客にとにかく浴衣が多い。

華やかな朝顔や椿に身を包んだ女の子の集団や、落ち着いた色合いで揃えて仲睦まじくじゃれあうカップル、北欧系の外国人の親子連れ、みんなみんな、この大規模な祭りへの臨戦態勢が整っている。

 

そういえば思い出した。

昨日の「宵々山(よいよいやま)」、友達とサークルの後輩とで名物の山鉾(やまぼこ)を横目に屋台巡りを満喫し、案の定いつものパブをはしごし、当たり前だが終電はとうにないので車で3,40分の道のりをダラダラと歩いて帰り、布団に倒れ込んだのは明け方だった。

 

だから出かける時間、寝過ごしたのか。そりゃ納得だわ、、、

 

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宵山」「宵々山」とかいうのは、祇園祭の前夜祭、前々夜祭のことをそれぞれ指す。

祇園祭とはなんと9世紀から続く京都の夏の風物詩で、7月1日から1カ月かけて行われる期間の長いお祭りだ。京都の中心、四条通り周辺にはとりどりの屋台が並び、「山鉾」と呼ばれる独特のお神輿がなかなかの迫力で見もの。

すこし奥まった路地にもあったりするが、屋台の並びに従って巡ればだいたい見落としなく観覧できるだろう。

 

よく考えたらなかなか挑戦的な企画だと思った。祭りのピークを迎える「宵山」のその日にライブをするとは。

 

 

結局、開演時間を10分ほど過ぎてから、会場のライブハウス兼ダイニングバーに到着した。

開演のMCがたぶんあるだろうと踏んでいたのだが、すでに演奏が始まっていたので惜しいことをしたと思った。

しかも立ち見ができるほどの盛況ぶりなのに、私はいつものクセで特に弾く予定もないのに楽器をフル装備で持ってきている。私のフィドルバイオリン)とマンドリンのケースは明らかに幅をとり、隙間のほとんどなくなった客席であきらかに邪魔だった。

 

ひとまず背負ったままだと演奏を見たいお客さんの迷惑になるので、なるべく人に当たらないように慎重にケースを降ろし、適当な場所を見つけて置いた。

つぎに席の空きがないか、8割がた諦めつつも一応探してみたのだが、テーブルの恩恵には預かれそうにない。

しかたなく柱の陰に一脚だけあったパイプ椅子にひっそりとポーチをおいて陣取り、ジャックダニエルの水割りを注文した。

 

柱の陰の席は意外に快適だった。

視界が柱に邪魔されてしまうというのはあるけれども、写真や動画を撮るのにまぁまぁいいアングルが確保できたし、店員の方もいろいろと気を遣ってくださったので、さながら個室で悠々とライブを楽しめたような感じだった。

 

 アンコールまで大盛況に終わって、7時に始まったライブは11時をまわっていた。

途中の休憩時間に冒頭の院生さんが声をかけてくれて、楽器も持ってきてるんだし、このあとセッション行こう!と盛り上がっていたの、だ、けれども。

もうパブに行ってもとっくにセッションは終わっている時間だ。

 

うん、充分楽しんだし、今日はもう帰ろう。

 

お先に失礼します、というつもりで院生さんに挨拶に向かった。

 

 

to be continued・・・