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ちょっとした冒険的な。

~つづき~

前回がまだの方はこちらからどうぞ。

 

yuriyuriyuriyuri88.hatenadiary.jp

 

 

・・・

 

 

そうそう、お先に失礼します、というつもりで帰り支度をして例の院生さん(最近ちょくちょくいっしょに行動してる同じ音楽界隈のひと。楽器もいっしょ。)に挨拶にむかったのだけれど。

 

約二時間後、私は院生さんといつものパブでソフトドリンクを飲んでいたのだった。(二人ともすでにほろ酔いだった。)

 

 

やっぱりすでにセッション(飛び入り可の即興演奏)は終わっていた。

店にはカウンターに仕事帰りなのか中年の男性が二人、静かにグラスを傾けているのみ。

最近アルバイトに入ったという後輩が、ぼんやりとトレイを拭いている。もしかしたらついさっきまで忙しかったのかもしれない。心の中でお疲れさま、と改めてつぶやく。

 

就活ってやっぱたいへんだよね。

お互い共通の知り合いの名前を挙げながら、あの人はいまどうしてるんだろう、この人はツイッター見るとたいへんそう、あの先輩はたのしそう、このミュージシャンの働き方は理想的、、、

いままでいろんな人としてきたはなしだ。たぶん院生さんもそうなのだろうな、という気がした。 

言葉がいつもの道筋とでもいうように、滑らかに流れ出てゆく。

 

院生さんの頼んだコーラはいつのまにかなくなっていた。

氷が重なっただけのグラス。炭酸の気泡がちいさく膨れては、はじけて消える。だれも気にしない、だれにも影響しない、ただの泡が生まれては消える。

 

就職するときはさ。

いつもより空間の広い店内では、わりと普通の声量でも響いて聞こえる。

何にこだわりたいのか。実際こだわることはできるのか。自分が選ぶのか。先方に選ばれるのか。音楽する時間をつくることができる働き方とは。

 

ゆるゆると会話が流れてゆく。

すこし眠くなってきた。今になってウイスキーがまわってきたのだろうか。

 

 

 

ライブに出演した何人かと、鴨川で1時あたりに落ち合うことになった。

結局、この日一日楽器を触っているであろう出演者のふたりと私たちの四人で軽く河原でセッションをした。

どこからか、外国の女性たちが踊りにやってくる。彼女たちの浴衣は、すこしはだけてしまっている。

盆踊りの真似なのか、生国のフォークダンスなのか、まったくわからなかったがとりあえず手を繋いでグループになりクルクルとまわっている。

途中からTシャツに短パン姿の男性も交えて輪になって、ここからはいよいよフォークダンスらしかった。

4人で共通の曲というのが全然なかったので、特に私だけアメリカ民謡(「ブルーグラス」と呼ばれる)が弾けないのでほぼ聞いていただけだったが、参考になるなぁなんて思いながらぼんやりと楽しんだ。

 

三条大橋の上を、たくさんのライトと会話の残響が通り過ぎてゆく。

外国人たちはいつのまにか姿を消していた。まるで妖精みたいだ、と思った。

 

ひととおり遊んで4人とも気が済み、ケースを背負って立ち上がる。

 1人とは帰り道が違うので橋の下で別れた。京大の学部生だというフィドルバイオリン)弾きの方と私たち3人で鴨川をのぼってゆく。

 

おなかがすいた、と私がうるさくしたので途中まつやに寄ってくれた。

時刻は午前3時をまわったころだった気がする。

市バスの始発は5時半だ。

ここから下宿まで、歩いてどれぐらいかかるか考えようとしたがやめた。

そもそもあれだけ盛り上がったライブから鴨川セッションを終えた時点で、すでに日常的な思考能力はブレーカーが落ちている。とにかく今欲しいのは布団だ。フトン、ふとん、、、

 

祇園祭にだれと行ったかみたいな話を途切れ途切れに(みんな眠そうだった)しながら、バスの始発までどうやって時間をつぶすか3人で適当に提案しあう。

 

これからまた河原に行って朝まで楽器を弾く案1、バーで朝まで飲む案2、京大の近くまで来ていたので興味本位で深夜の吉田寮探検、案3。

採用されたのは案3で、みんなでダラダラと吉田寮に向かった。

 

 

・・・

 

 

「思っていたよりヤバかった」としか感想はない。

 

まず、年季の入った、という表現を遥か昔に通り越した寮の入り口からは、中の様子が丸見えだった。(玄関が開けっ放しだった)(深夜なのに)

 

布団…のようなものを敷いて何人か男の子が無防備に寝ている。

家具…のようなものが散乱しているので床の隙間を見つける感じで、各々が心地よく眠るためにベストを尽くしたのだろう、と思われる体勢でなんとか寝っ転がっている。

 

ちょっと見ちゃいけないものを見てる気がする。

プライバシー、という単語が一応日本語には取り入れられていた気がする、けど、なぁ、、、

 

言い出しっぺの院生さんは まったく躊躇せずズンズンと先に入って行ってしまい、ほどなくして学部生さんも彼に続き、私はあまりのオープンさに逆に後ろめたくなって置いてけぼりをくらってしまった。

 

入ってよいのか~~でもここで一人で待ってるのもいやだ~~と冷や汗を垂らして固まっていたら、中から半裸の男の子と、彼の腰に腕をまわしたジャージの女の子が出てきた。

ひぃ、となった勢いでなぜか中に入ってしまっていた。行き場がないのでそのまま二人を追って左手に曲がり、寮の廊下を伝う。

 

 

入り口から見えた居間のインパクトも強烈だったが、廊下もまた「絶景」である。

食器棚、電子レンジ、冷蔵庫、靴箱、掃除用具、人をダメにするクッション(と思われる何か)、マネキンの頭(美容師が練習に使うようなやつだ)、コピー用紙、よくわからない何かが入ったガラス棚、なにやら激しい文言の書かれた貼り紙が、そこかしこ、一緒くたに細い通路の脇を彩る。

ちょっとしたお化け屋敷のような湿り気のある空気が不気味さをましましにしている。

 

大昔の木造の学校のような造りで、廊下の右手には部屋が一定の間隔で並ぶ。

ドアの前にくると集合したスリッパやパンプスやブーツ、サンダル、スニーカーが通り道をすこし狭くする。話声のするドアもあれば、明かりがついて静かなドアもあり、靴はあるのに暗くて静かなドアもあった。

左手は中庭なのか、外の様子が見える。すこし空が明けてきたのか、薄暗いような、薄明るいような。

 

廊下を抜けた先で、5羽ほどのニワトリと、洗濯ロープにかかったシャツとそこにさりげなくいっしょに干されているマネキンの頭、が私たちを迎えてくれた。

ニワトリと、シャツとマネキンの頭を、3人で無言で見つめる。

 

くぉーけくぉっくぉう。

 

けっけっけぇ。けっこぉう。

 

、、、。

 

 

 

 

帰ろっかぁ、と呑気なだれかの一声でおとなしく帰った。

途中、院生さんは新しい方の吉田寮(こちらはきれいに改築?されたらしい)にも行ってみようとか言っていたが、なんというか行き着いた先のニワトリの鳴き声に拍子抜けした私は気乗りしないし眠かったので、もう今日はいいですーーとか言って済ました。

 

どこかで仮眠をとろうという話になって、前回のはなしの冒頭に戻る。

 

微かに夏の匂いがする。なんとなく青春っぽいと思った。

京大のクスノキの下は静かだった。

 

アイス食べたーいという私に合わせて、バスに乗る前にローソンにいっしょに寄ってもらえた。お二人も食べると思っていたら店に入ったのが私だけだったので、3人で食べられそうなアイスを探したが、分けられるのがパピコしかなかった。

おとなしくパルムを買って外に出ると、院生さんがつかれたのかちょっと顔をしかめて、じゃあ、もう帰っていっすか、と言った。

もともと私が帰るのめんどいーーとかいうので気を遣わせてしまったのだった。

 

学部生さんが気を遣って帰れる?と聞いてくれたので、だいじょぶです帰れますと答える。

 

 

とにかくまぶたが重いし、お布団が恋しい。

学生にはとにかく体力が要る。

 

 

fin.

~前回はこちらからどうぞ~

 

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