読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

生活の空気

エアコンから溶剤の臭いが排出されるようになった。

部屋に散らばる生活の小さな山々。

しばらく干しっぱなしのワンピースが溶剤の風に揺れている。

ミニキッチンの流し台にも生活の痕が積み上げられ、お風呂場の排水口には色落ちした金の糸がまぐわったまま時を止めている。

出先で買って増えた小説はすべて読みかけで、他人の日常の集積所は私の日常の生活に紛れ息を潜めている。

万年床は不潔で嫌いだが、潔癖というわけでもないので、シーツは月に一度洗えばいい方だ。

開けっ放しのクローゼットからは冬物の分厚いコートがはみ出していて、その黒が物々しくて好きじゃない、と思う。シーズンになったらーー秋も中盤を越えた頃になったらーーメルカリで売ろうと考えている。

隣人は誰もいないので、鼻歌も歌えるし部屋の鍵を閉め忘れても何も起きない。

 

ツンとする人工物の臭いは、今や私の部屋の生活を満たしている。

何とか中毒、と呟きが頭をよぎるけれど、ここ2日のことだ。大丈夫だろう。

 

動作するたびツン、ツンと生活を刺激する実体のない溶剤はまったく薄まる気配がない。

早くこの部屋を出て行って欲しいのだけれど。