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もう関わらないでくださいの手紙

わたしのたったふたりの親友へ。

きっと届くことはないだろうけど、もう一度だけ手紙を書くことを、許してください。

 

 

 

あなたたちと出会ったのは、とある夏休みでしたね。

 

 

家に帰ってからも、何度も、何度も、何十回も、何百回も、何千回も思い出していたから、細かいところまで、よーーく覚えています。

 

いっしょのカヌーに、一度だけ乗ったね。あのときのあなたは、殿様みたいだった。わたしはあなたに言われるまま、もたもたして、鬼ごっこには参加さえしなかったね。

橋の下で。あなたは俺たちの勝ちだって言ってたけど、ぶっちゃけ不戦勝じゃんって可笑しかった。

そのあとみんなでカレーを食べたね。美味しかった。わたし、じゃがいもが上手に切れなかったけど、精いっぱい表情に出ないようにして、余分なくらい真剣だったよ。

あんまりおなかが空いていたから、いただきますをする前に、ひとりで食べちゃった。

あなたには、フライングだーって、笑われたね。あなたには、くいしんぼーって、言われた。わたし、すごく恥ずかしかった。でもすごく、嬉しかった。あなたたちと最初に話したその日。

 

 

次の日は、何をしたっけ。そうだ、確か、一日中、カヌーを漕いでた。

体育座りした胸の高さで追い越す、川面の模様と光、山に挟まれた天球の青と、サイダーの泡みたいな綿雲の爽快さ。

たまにオールで水の掛け合いをしたりして、ふざけて、楽しかったけど、わたしはうまく水を跳ね返せなくて、あなたたちに笑われたね。笑ってばっかだった。

 

その次の日は、わたしは冷え性だったのでおなかが朝から痛くて、川遊びができなかった。とってもきれいな川で、透明なエメラルドグリーンが、濃度を自由に変えながら、他の子たちを飲み込んでいった。わたしは日陰でそれを見てた。あなたたちのサイズの大きすぎるトランクスみたいな水着の柄と色を覚えておいて、探したんだけど、同じような人がたくさんいて、すぐ見失ってしまった。

目で追うものがなくなって、ただぼーっとしてたら、びっくりした。

あなたが川から上がってきて、でも見ないふりをしてた。ちょっとドキドキしてたのを覚えてる。

でもね笑ってしまった。だってあなたがゴーグルの中に何を入れてきたのかと思えば、川の水が入ってたんだもの。ゆりおなか痛くて入れないだろうから持ってきたって、かわいいよね。その中にお魚も入っていたっけ??忘れてしまった。

 

キャンプファイヤー、みんなでしたね。

怖い話の出し物をわたしたちの班はしたような気がするけど、全然ウケてなかった。猛獣狩りしてた班の、当時の中学生の班は、すごかったね、盛り上げ方が。

あのおデブのこと、ふたりとも覚えている??わたしのことを、巨人、巨人、って見つけるたびにからかってくるの。

3人で居たら、またおデブがわたしのことをからかってきて、わたしが黙ってたら、あなたたちが言い返してくれた。黙ってればやり過ごせるって知ってたけど、一生懸命おデブを罵倒してくれるあなたたちが嬉しかった。そんな風に守ってもらったことが、無かったから。

 

帰る前の日のキャンプ場で、わたしたちはテントを隣にしたよね。

ご飯は闇鍋だったけど、リーダーのみかんが食べられる闇鍋にしようって言ったから、みんな食べられそうなものを入れたよね。名ばかりの闇鍋。

あなたが飯盒の係で、みかんにどれくらい食べられると思うって聞かれて、10合はいけるって、得意そうに答えていた。あのときやばいなって思ったけど、案の定みんな食べきれなくて、あなたはみかんに残ったご飯の処理を任されてた。

夜にたくさん話をしたよね。あなたたちは一緒のテントで、わたしは女だからほかの女のこと一緒のテントで、テント越しに話をした。あなたは途中で寝ちゃったよね。さくらことワンピースの話してる途中で寝てたよ。あなたが寝たあとはあなたとずっと話をしてた。お互いの学校のこととか、他の子たちが寝るまで話をしてたよ。

 

朝は5時起きで、みんな眠くて、でもわたしたちは自然に集まって3人で配給されたサンドイッチを食べた。わたしはイチゴジャムのを食べたけど、全然おなかにたまらなかった。

 

帰りのバスが来て、乗ったけど、席が離れちゃったんだよね。あなたたちがえ~~って、すごく残念そうに言って渋々席についたあとで、わたしは座席の裏のポケットに備え付けてあった白い半透明のポリ袋に、持ってたぷっちょを2つと、住所をメモ帳に書いたのを切って、中に入れて、ぽいって投げた。

痛って声がしたから、頭にでも当たったみたい。ポリ袋は投げ返されてきた。中にはお返しのお菓子と、あなたたちの住所と。でも、字が汚くてあなたのは解読不能でした。

わたしはそのあと寝ちゃったみたい。あなたたちが言ってた。何回も名前呼んだのに、ぜんぜん反応しなかったって。

 

飛行機では、ずっといっしょにいたから、チケットも連番だったんだよね。3人で喜んでた。でもわたしはずっとこれからも毎日ふたりと会えたらいいのにって考えちゃって、今ビデオ見返すと、いっつも暗い顔してるの。だって、学校に、家に、自分の部屋に、戻りたくなかった。

 

わたしがはじめての飛行機で、緊張して、またおなかを痛くしてたら、あなたは背中をさすってくれてたし、あなたはもし墜落したら、俺が守ってやるからなって、言ってくれた。こんなに同じ年頃の子に優しくされたことなかった。大人にもなかった。だから、ずっとだいじにしたい友だちだなって、思ったんだよ。

 

でも結局、だいじになんてできなかったよね。ごめんね。ごめんね。

ごめん。

 

 

わたしにとって、あなたたちは、あなたたちの名前でしか、ないです。

気がついてみたら、もう10年も経つころだよ。こうして20年、30年、40年、80年経っても、きっとわたしは今と同じだけの鮮明さを以って、わたしの内面であなたたちと話したり、見たり、触れ合うことができる。

あなたたちはわたしの中では、既に死者です。よくない意味ではなくて。もういない人なんです。

だから、どうか元気にしていてください。わたしのいないところで。わたしと関係ない場所と、人の中に揉まれて。そこらへんのひとと同じようにして、わたしとすれ違っていってください。

 

さようなら。あなたはいまげんきにしてますか?あなたはいま楽しく過ごせていますか?答えなくていいです。答えを聞きたいわけじゃないです。さようなら。幸せになってね。きっと、わたしが死ぬときに思い出すのは、あなたたちとの軌跡です。